土地評価のブログ

不動産鑑定士の日々

生麦事件

長野市から。

昨年から吉村昭氏(故人)の好きな小説を読み返してます。2巡目ですが吉村氏の文献調査能力に改めて驚くことがあります。


江戸時代末期、薩摩藩(鹿児島県)の大名行列を馬で川崎大師へ向かうイギリス人が乱したことに端を発し、薩摩藩とイギリスの間で戦争(薩英戦争)がおこなわれました。そして、和議(11月15日)の際、薩摩藩はイギリスへ下記贈物をした記録が残っています(生麦事件)。
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公使及び水師提督へ → 白縮緬(ちりめん)、白絽(ろ)一反ツ
ユラース船将並書記官及び公使館通弁官両人へ → 紫ちりめん一反ツ
軍艦乗組員へ→蜜柑(みかん)10箱
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ちりめんや絽といった着物の生地のほかに、みかんまで贈っていたことに驚きました。和議の日は確かにみかんがたくさん売られています。おそらく藩には贈物を選別する係がいて、誰に何を贈ったらいいのか精通していたのでしょう。


実際、江戸時代の各藩は将軍や朝廷への献上品に工夫を凝らしていたことが、献上品のバイブルとも言うべき「武鑑」からうかがえます。この武鑑は当時、書物屋(本屋)で販売されていて、桜田門外の変において大老井伊直弼を襲った浪士たちは、武鑑を手にして大名行列見物の田舎侍を装ったという逸話が残っています。
<引用・参考文献>
吉村昭「生麦事件」p.150,新潮文庫
吉村昭「桜田門外の変(下)」p.96,新潮文庫

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